フォントとは、“スタイリッシュ”や“キュート”など、多くのイメージを持った“情報”です。見た(文字を読んだ)人の想像力を膨らませ、伝えたいイメージに近づかせることも可能ですが、逆にしっくりこないフォントを選んでしまうと、商品やサービスのことを誤解されてしまうかもしれません。
シリーズ「フォントでコミュニケーションする方法」では、デザイナーがフォントに対して日々感じていることを座談会形式でご紹介。デザインにおけるフォント選びの大切さや、商品イメージにあうフォントを選び出すヒントについて、読者のみなさんと一緒に考えていきたいと思います。
オーガニックコットンを使ったベビー服ブランド
「モリサワ」に合うフォントって?
第1回は、『デザイナーが妄想!フォント大喜利』と称し、3名のWebデザイナーが架空のベビー服ブランド「モリサワ」のイメージに合うフォントを選定。TypeSquareのWebフォントと色指定だけで “モリサワの4文字がどこまでブランドを表現できるのか” にチャレンジしました。
まずは、ブランドイメージを整理します
― “オーガニックコットンのベビー服ブランド”って、どんなイメージがあります?
デザイナーA:
オーガニックコットンなら、30代から40代くらいの、「ライフスタイルにこだわりがある」女性がターゲットですかねえ。
デザイナーB:
価格帯で言うと、少し上質なイメージですよね。ロンパースで、うーん…5,000円くらい?
デザイナーC:
自腹でポンと買いづらい価格帯だから、ギフトに良いですね!
― そうそう、上質なアイテムはもらって嬉しいですしね。
イメージを膨らませて、フォントを選びます。
― イメージが膨らんできたところで、早速フォント指定をお願いします!
デザイナーA:
私はフォントを「花蓮華-M」、色は「#6BADBE」にしてみました。
― このフォントと色にした理由って?
デザイナーA:
上質感とやわらかい雰囲気のある明朝体をベースに、オーガニックコットンなので、文字中のパーツが詰まっていないフンワリした書体が合うかな、と思って選びました。「小町(本明朝用)-L」と迷ったのですが、「サ」「ワ」の高さが低くて小ぶりなところがベビーっぽいと感じたので、やっぱり「花蓮華-M」がよいかな、と。
色は、爽やかで上質感があり、男女どちらにも合うよう僅かに緑の入った水色が頭に浮かび
ました。ベースは「秘色(ひそく)#ABCED8」という、日本に昔からある色です。磁器の青磁を模しているらしいのですが、青磁は唐の時代に「天子への供物」として重宝されていたというストーリーがあるようなので、縁起もよさそうだな、と。秘色のままだと視認性が低いので、少し濃い目に調整しています。
― ストーリーを聞くと、ブランドに愛着がわきますよね。ありがとうございます!ではBさんは?
デザイナーB:
フォントは「UD新丸ゴ DB」、色は「#428FD3」でお願いします。
文字の角が丸くなっていると、シンプルかつやさしい印象を与えるので、ベビー服にピッタリだと感じました。水色は、生活空間において大切な清潔感や安らぎを与え、かつ、曲線にあう色だと思います。
― 水色が人気ですね。「曲線にあう」って考え方、とてもおもしろいです。
デザイナーB:
最後まで迷ったのが「丸アンチック DB」、色は「#FB9BA6」です。グレーとも迷ったのですが…。
この角丸も柔らかさがあり、落ち着いた印象がいいですよね。幼すぎず、ウエイトに関わらずキレイに見せることができそう。ピンクには、子どもらしい愛らしさや柔らかい印象があるので、幅広い層に受け入れられると思います。
― 上質感を出すには、幼すぎないって大切ですよね。ありがとうございました!最後にCさんは?
デザイナーC:
私は「解ミン 宙 M」で、色は「#C2A772」にしました!
オーガニックコットンを使ったベビー服なので、フォント・カラーともに、目立つというよりも“馴染む”ものがいいかなと思って選びました。強弱のあるハネやウロコの丸みで手書き感が出せるし、柔らかさや優しいイメージも一緒に表現できるかな、と。
― 「目立つより馴染む」という発想が、ブランドにしっくり来そうです。ありがとうございます!
“オーガニックコットンのベビー服ブランド”に合うフォントって?
― 3名のアイデアが出そろったところで、モリサワでTypeSquareを担当されている阪本さんが一番気に入ったのは、どのフォントですか?
阪本:
そうですね、自分の子どもに買うのなら、ということで選んでみました。悩みますが、私なら「解ミン 宙 M」でしょうか。ちなみに「かいみん そら」と読みます。
私が当てはまるかはさておき、“ライフスタイルにこだわりがある親が購入するベビー服”なので、あえて子どもっぽさを感じさせるものではなく、ブランド自体の信頼感を演出できればと思いました。明朝系の書体でも良いのですが、この「解ミン 宙」は、隷書の筆法を明朝体に取り入れた書体で、しっかりとした佇まいと優しさのバランスが絶妙です。文字色をカラフルにしても映えると思いますよ。
デザイナーC:
選んでいただいてありがとうございます!優しさのあるフォントなので、カラーを変えるだけで親・子どものどちらに対しても使えそうです。
― イメージに合うフォントを選ぶのって、おもしろいけれど結構大変ですね…。プロセスを知ったことで、デザイナーさんに「もう少し別の、いい感じのフォントないですか~?」って、気軽に言えなくなりそうです(笑)。
(次回へ続く)