フォントでコミュニケーションする方法 その3 「フォントを味方につけるには? デザイナー兼ショップオーナーの場合」

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フォントとは、プロダクトやサービスのブランディングにおいて、受け取るイメージや記憶に大きく影響を与え、同時にそのクリエイターのセンスを瞬時に伝えることができる“おしゃべり”な存在です。では、Webでプロダクトを紹介・販売する「クリエイター」や作り手である「Webデザイナー」は、Webサイトをデザインする時に何を思い、何を大切にしているのでしょうか。クリエイターやデザイナーたちにとってのデザインとは? フォントとは? それを通して伝えたいことは? 作り手たちを取り巻くデザインと、その先にあるものを知ることで、フォントに対して改めて考えるヒントが詰まっているように思います。

デザイナー夫婦が考える暮らしと、その先にあるデザイン

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築100年の京町家をリノベーションした空間で、京都の人気焙煎所のコーヒーと、京都近郊で活動する作家の作品を販売する「Dongree コーヒースタンドと暮らしの道具店」。ユニークな構成の店舗を営むのは、ともにデザイナーとして活動する柴崎友佑さんと奧さんの寛子さん。手仕事の品を扱うことへの思いや、それを店のロゴやホームページでどう表現したのか。柴崎さんたちが考える手仕事と暮らし、そしてデザインの話を伺いました。

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「Dongree」は、京都にある5つの焙煎所のコーヒーと京都近郊の作家さんの作品を販売するショップであり、それを営んでいる柴崎さんご夫妻の本業はデザイナーであるという、その取り合わせがとても興味深いんですが、そもそも、お店を始めたきっかけは何だったんですか? 

柴崎さん〉僕はデザインの中でも、主にWebが中心なんですが、基本、Webの仕事は電話とメールでコミュニケーションが取れてしまうし、家で完結しちゃう仕事でしょう。でも、気持ち的にはもっと人と繋がりを持てる仕事がしたいと以前から思ってて。幸いなことにWebの仕事は場所を選ばずできるという利点があるので、いつの日か、“事務所兼好きなコーヒーが出せる場所を”と考えていた時に、タイミングよく、ここで店を開く話がまとまったんですよ。

作家さんの作品を置くというのは、最初から構想にはあったのですか?

柴崎さん〉もともとデジタルワークの反動から、モノを作り、それを手に取った人が喜んでくれるという、手仕事をされている方たちに憧れがあって。といっても、今さら僕が手仕事をするというのはピンとこないけれど、人と人、人とモノを繋ぐ紹介者にはなれるんじゃないか、と。そこで、作家さんの作品を置かせてもらうことにしたんです。

作家さんはどういう基準で選んだのですか? やはりデザイナーさんが選んだだけあり、デザイン的に美しいものが多いのですが、まずは造形ありき? 

柴崎さん〉いやいや、デザインはもちろん重要ですけど、まずはものづくりに対する姿勢というか、思いが共有できる人を基準にしています。まずは、器や洋服、革製品など、モノを作って生きていこうとしている方で、さらに、それを作品というよりは、日常のものとして使ってもらいたいという思いのある方。今は実際にお会いして、どういう思いでものづくりをされているかを知っておきたいので、自然と京都近郊で活動する方が中心になっていますが。それと、コーヒーを扱っているのも、もともと「コーヒー屋さんがしたい」という思いが出発点だったということと、コーヒーの焙煎も、いわば職人の手仕事だと考え、距離感が近く、思いが共有できる焙煎所さんのものを揃えました。

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そういったお店であって、「Dongree」という屋号の意味は? 

寛子さん〉“どんぐり”って木の実の総称になっているけれど、実際はいろんな樹木の実だし、形もそれぞれ違うじゃないですか。この店で扱う手仕事の一品もそれぞれ同じものはなく、“どんぐり”という言葉もクラフト感を醸し出しているので、この名前にしました。柴崎さん〉それと「Dongree」は僕ら二人の仕事におけるユニット名でもあるんですよ。だから表記もちょっとだけオリジナリティを意識して、最後を“ee”としました。呼び名も「どんぐり」じゃなく「ドングリー」。でも、意外にみなさん、「どんぐりさん」って短めで呼びはるけど(笑)。

「どんぐり」じゃなかったんですね(笑)。ロゴや看板、店内の作家さんを紹介するカードなどは、お二人がデザインされたんですか? 

寛子さん〉デザインは私です。ロゴに関していえば、お店で扱うのがコーヒーとクラフトなので、その両方のイメージをどう表現するか、どんなフォントを選ぶかが難しかったですね。「クラフトはゴシックを使って強いイメージに…」と考えた時に、コーヒー屋さんとしてのやわらかさやくつろぎ感が失われるような気がして、どんなバランスにすべきかが頭を悩ませたポイントですね。

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ロゴにどんなフォントを使っているかで、店のイメージが決まることも多々ありますもんね。

寛子さん〉そうなんですよ。扱う商品の特性から考えると、重すぎるフォントは違うし、逆にスタイリッシュなものだときれいにまとまりすぎて、うちの店っぽくないし、主人とも合わない(笑)。その辺りのバランスを考えた時に、「Dongree」という言葉だけでなく、「コーヒースタンドと暮らしの道具店」という言葉も加えました。そうすることで、道具店をやっていることが分かってもらえるので、「Dongree」のフォントはコーヒー屋さんのくつろぎ感だけを重視して選び、日本語の言葉は合成フォントにして、全体のバランスを取ったんです。

それぞれ違うフォントを組み合わせているんですか? 

寛子さん〉漢字はシュッとしたイメージを出そうと明朝を使っています。反面、平仮名とカタカナはやわらかな和の雰囲気のあるフォントを選びました。合成フォントにして、微妙なニュアンスを探ったという感じですね。

その甲斐あって、店の雰囲気とロゴや看板がぴったりハマりましたね。手仕事感が伝わってくるようです。

柴崎さん〉僕らがこの店で伝えたいことは、お客さんに何かを買っていただくということは、「丁寧な手仕事への一票」だということ。どこにお金を使うかで世の中の流れは変わりますよね。ということは、職人さんが作る上質のものを選んで、それを永く使うことは、豊かな生活を目指すことに一票を投じているのと同じだよ、と。だから、レシートにも「丁寧な手仕事への一票」と書いていて、買っていただいた方に対してそういうメッセージを込めています。

手仕事を大切にすることが、豊かな暮らしへの足がかりになるという発想はおもしろいです。ホームページもそういった内容が表現されているんですか? 

寛子さん〉今は、ホームページではそれを知ってもらう表現がまだできていないので、これから変えていかないと、と思っているんですよ。

「Dongree」としては、コーヒー屋も道具店もWebもあるから、それを分かりやすく魅せるのは難しそうですね。

寛子さん〉どう整理するかはもちろんですが、伝えたいメッセージや言葉をどうやって印象的に魅せるか考えた時は、やっぱりフォント選びは大切になってくると思います。

なるほど。ちなみによく使うフォントってありますか? 

寛子さん〉私は細めのゴシックが好きですね。そのなかでも自然と使うのが小塚かな。ゴシックMB101もよく使いますね。これは太かったり細かったりと幅があるので、広告を制作する時はよく使います。それとA1明朝も使いますね。これは文字幅がないので、太らせて使うことが多いですね。

ゴシックMB101 サンプル

デジタル文字は美しく進化する

A1明朝 サンプル

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柴崎さんは?

柴崎さん〉僕はよく使うのはフォークかな。看護士系大学のサイトなど、やわらかい雰囲気のデザインが求められる時に、フォークはきちんと感がありながらも女性らしさもあるので。でも、僕が先に仮で組んだ後に、奥さんが本格的にデザインをし直すんですが、でき上がると、だいたいフォントが変えられていることが多いんですよ(笑)。

フォーク サンプル

デジタル文字は美しく進化する


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やっぱりフォントも好みがありますからね(笑)。フォントのイメージでデザインもそこに入る言葉も変わってきたりしますもんね。

柴崎さん〉僕はサイトをデザインする時に、一度リュウミンで適当な言葉を落とし込んで、全体の雰囲気をつかむんです。こういう文字でキャッチコピーを置いた時にどんな印象になるかな、とか。そうすることで、そこに入れるべきキャッチコピーが生まれることがあるんですよ。

リュウミン サンプル

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そうやって、まずはビジュアルありきで言葉を紡ぐというのもデザイナーさんらしい発想ですよね。

柴崎さん〉でも、その後で奥さんにそのフォントを変えられちゃうんですけどね(笑)。

Dongree コーヒースタンドと暮らしの道具店

京都府京都市東山区池殿町214-4 青春画廊1F
075-746-2299
8:00〜17:00(土・日・祝日は9:00〜18:00) 火・水曜休み&不定休

http://www.dongree.net/