フォントとは多くのイメージを持った“情報”であり、“ラグジュアリー”や“親しみやすさ”など、商品の魅力を瞬時に伝えることができる存在です。商品やサービスにぴったりなデザインを選ぶことで、フォントがあなたのブランドの「優秀な営業マン」になってくれるかもしれません。
シリーズ「フォントでコミュニケーションする方法」では、デザイナーがフォントに対して日々感じていることを対談形式でご紹介。今回も3名の女性Webデザイナーがフォントをどのように選んでいるのか、その考え方を教えてもらいました。では早速、彼女たちの頭の中を覗いてみましょう。
ビジネスパーソンの5人に1人が着ているワイシャツブランド「モリサワ」に合うフォントって?
今回も、3名のWebデザイナーが架空のワイシャツブランド「モリサワ」のイメージに合うフォントを選定。TypeSquareのWebフォントと色指定だけで“モリサワ”の4文字がどこまでブランドを表現できるのか にチャレンジしてもらいました。
多くの男性に支持される「ワイシャツブランド」を想像してみます。
— 近頃のワイシャツって、値段が手ごろなものでも襟にステッチが入っていたり、ボタンホールだけ違う色の刺しゅうが入っていたり、おしゃれなものが増えましたよね。
デザイナーA: 生地にうっすら柄が入っていたり、袖口の裏地が凝っていたりするデザインもあります。
デザイナーB: 5人に1人が選ぶということは、価格帯っていくらくらいですかね。20代と50代で差はあるでしょうけれど、うーん、3~5,000円くらいかなあ。
デザイナーC: パートナーが選ぶこともあるだろうし、「バリバリ仕事できる感」があると手に取ってもらいやすいかも(笑)。
ターゲットのことを思い浮かべながらフォントを選びます。
— ではイメージが固まってきたところで、早速フォント指定をお願いします。
デザイナーA: 私はフォントを「ナウ(ゴシック)ナウ-GB」、色は「#8F8F8F」で!
— このフォントと色にした理由って?
デザイナーA: 日常使いのアイテムなので、スタンダードで主張しすぎないフォントを選びました。ナウ-GBは、安心感とスッキリ感のバランスがビジネスパーソン向けかなと。色は純粋な中明度のグレーなら信頼感が出せると思います。
もし、ブランド展開としてカジュアルなシャツや遊び心のあるデザインの商品もあるなら、ウエイト(文字の太さ)がもう一段階細い「ナウ-GM」がいいかもしれません。
— ウエイトが変わるだけで、確かに遊び心がほんのりプラスされましたね。フォントだけで「仕事できそう感」が伝わってきます。ありがとうございます! ではBさんは?
デザイナーB: フォントは「A1明朝」、色は「#111111」にしました。
かしこまりすぎていない明朝で、柔らかさもあり親しみやすいと思います。高級感のある黒にしたのですが、この色は少しグレー寄りなので、スミ(CMYKのK=ブラックのこと)より堅苦しくない印象になるかな、と。
「ナウ(明朝)」もいいと思いました。明朝ほどキレイでスタイリッシュではないところが、骨格のある男性らしさを表現できそうです。色を紺「#1F3068」にすると落ち着き感や好感度がアップするので、ビジネスパーソンに選んでもらえそうかな、と。
— ナウが二度目の登場ですが、ゴシックと明朝で印象が全く違いますね。面白いです! ラストのCさんは?
デザイナーC: 私は「秀英角ゴシック銀 B」で、色は「#000000」で行きます。
だれもが知っている、着ているようなブランドなので、さまざまなデザインやカラー、年齢にも合うよう、フォントや色は普遍的なものをイメージしました。
— 3人の中では一番男性らしい感じですね。でもスマートさもあって、私は好きです。ありがとうございます!
“5人に1人が着ているワイシャツブランド”に合うフォントって?
— 3名のアイデアが出揃いました。では、モリサワでTypeSquareを担当されている阪本さんに質問です。一番気に入ったのは、どのフォントですか?
阪本: 前回に比べて今回はかなり悩みました。どれも長く定評のある書体で、お題から受ける“王道”のイメージを体現するのにぴったりです。その中からあえて選ぶとするなら、Bさんの「A1明朝」でしょうか。
スタイリッシュなイメージを出すためにゴシック系でもよかったのですが、幅広い年齢に受け入れられることを意識して明朝体を選びました。ちなみにこの「A1明朝」は、漢字の曲線やかなの表情から、キリッとした明朝体の中に優しさを感じるデザインで、2016年に大ヒットを記録したアニメーション映画のタイトル表記にも使われた書体なんですよ。広告のコピー表記で選ばれることも多いので、今回のお題なら、スーツ姿の写真の上に白抜き文字を乗せて…といったことも考えられますね。
デザイナーB: やった! ありがとうございます。私も、映画のエンドロールで使われているフォントや、歌番組の歌手名や歌詞のフォントが気になって仕方ありません。そのフォントを選んだデザイナーの意図を考え始めると、なかなか忙しいです(笑)。
— 男性向け、しかもビジネスシーンだとイメージが似たり寄ったりになるかな…と思っていたのですが、いろいろなアイデアが出てきてよかったです。あと、3人の女性Webデザイナーにとって“ステキだと思うビジネスパーソン像”が、それぞれの選んだフォントからにじみ出ているような気がしています。私の考えすぎでしょうか(笑)。
(次回へ続く)